カカベジ1
その夜、悟空は部屋でベジータを待っていた。
今まで時間に遅れた事のなかった彼が、今日に限ってなかなか姿を見せない。
時計の針はそうしている間にも確実に時間を刻み、もうすぐで待ち合わせの時間から1時間が経とうとしていた。
(ベジータの奴、何かあったんかな?オラ待ちきれねぇぞ…)
はやる気持ちを抑えようと、悟空はソファに腰掛けゆっくりと目を閉じた。
彼の頭の中は、既にベジータでいっぱいだった。彼を想うだけで、体中が熱くなってくるのがわかる。ベジータに会いたい。会ってすぐにでも抱きしめてやりたい。そんな感情ばかりが彼の脳裏を支配していた。しかし、そんな悟空も昼間の修行の疲れがでたのか、いつの間にか睡魔に襲われ、数分後には深い眠りの世界へと入っていってしまった…
-★-
悟空とベジ-タが夜にブルマやチチ達に内緒で会うようになったのは、丁度一ヶ月前のあの寒い冬の日、悟空がベジ-タへの切なる想いに気付いた時からだった。
その時の悟空は、やっとの事でブウとの戦いに勝ち、その事で地球に平和が戻ったというのになぜか気分が晴れなかった。落ち込んでいる、といってもいい位に落胆し、いつもの食欲がどこへ行ってしまったかのようだった。
何だか妙に物足りない。地球の平和は戻ったが、それと引き換えにかけがえのない存在(モノ)を
失ってしまった…そんな気がする。それが一体何であるのかはわからないが、悟空はなぜだかそれを無償に欲していた。
(オラ一体どうしちまったんだろう…心が空になっちまった見てぇだ…)
チチ達にこれ以上訳のわからない心配をかけたくなくて、悟空は思わず家を飛び出した。そして瞬間移動である洞窟にたどり着くと、そこに腰をおろした。
…その時だった。まるでその瞬間を待っていたかのように、急に何かが目からこぼれ落ちた。
(え……?)
気が付いてみると、一筋の涙が悟空の頬を伝って流れている。
(オラ、もしかして泣いてんのか……?)
思いがけない状況に戸惑った彼は、あわててその涙を拭おうとした。しかし、そっと拭う程度では間に合わない程、後から後から涙はあふれてくる。どうにかして止めようと試みたが、余計に今までの切なさや苦しさが込み上げてきて、一層ひどくなるだけだった。
(どうしたらいいのかわかんねぇよ…。何でこんなに悲しいんだ?)
自分への問いかけに答える事も出来ずに、悟空はただ立ち尽くすしかなかった。
冬の風が夜になって冷たさを増し、容赦なく悟空の体を冷やしていく。心の中までその寒さは伝わって、意識さえ失いそうになっているのに、どうしてか涙だけは流れるのを決して止めようとはしなかった。
(オラこのまま死んじまうのか…?なら最後にこの涙の正体が何なのか教えてくれよ…)
動く事さえ出来なくなり意識も遠のいていく中で、悟空はただそれだけを願っていた。
-★-
「起きろっ!カカロット!!」
遅れてきたベジ-タは、着いた途端悟空を起こすのにてこずっていた。待ち合わせの時間から1時間ちょい。寝始めてから5分も経っていないというのに、悟空はすっかり熟睡してしまっていた。
「貴様、せっかく俺様が来てやったと言うのに寝るとはどういうことだぁー!」
ベジ-タの声が部屋中に響きわたる。しかし、1回寝始めたらちょっとやそっとじゃ起きない悟空のこと、叫ばれたくらいで起きるはずがない。
(く、くそったれ~!)
怒ったベジ-タは、バッと悟空の腰にまたがると彼の肩を引っつかみ、体を前後に激しく揺らし始めた。悟空の頭がぐらぐらと揺れる。が、その努力も甲斐なく、悟空はう…んと寝返りを打つと寝息を立ててまた寝てしまった。
(これでもダメか…)
もう呆れて怒る気も失せてしまったベジ-タが、仕方なく近くの椅子に腰をおろす。そして振り返ってちらっと悟空の方に視線を向けると、一瞬にして言葉を失ってしまった。
(カカロットの奴、何て顔して寝ていやがるんだ…)
年とはうらはらにまだあどけない寝顔。安心しきったその顔を見つめているうちに、ベジ-タはいつの間にかやり場のない思いに囚われた。
悟空の唇を思う存分に貪りたい。服を剥ぎ取って体に触れ、自分の欲望のままに汚してしまいたい。その思いは抑えようと思えば思うほど増していき、ついに限界にまで達してしまった。
(そんな顔して寝てる貴様が悪いんだからなっ!!)
すると、ベジータの中で何かがはちきれた。そして次の瞬間、ベジータは悟空の唇に自分の唇を重ねていた。今まで抑えていた欲望が解き放たれて、最初は恐る恐るだった行動がどんどんエスカレートしていく。優しく触れる程度のキスではもう満足できずに荒々しく彼の唇を吸う。歯列をなぞるようにして滑り込ませた舌が悟空のモノと絡まり、甘い蜜が溢れ出る。その蜜が滴り落ちていくさまなど気にとめる間もない程、夢中で唇を貪っていた。
…ピクンッ
突然悟空の体が動いた。
ビックリしたベジータが思わずその行動を止める。ふっと我に返り、今まで自分のしていた事を思い出す。そして恥ずかしさのあまりその場を去ろうとしたその時だった。不意に腕を引っ張られ、ベジータは悟空の体の上に覆い被さるように倒れこんだ。
「……」
沈黙が流れる。さすがのべジータも動揺を隠し切れない様子でゆっくりと体を起こすと、すぐに悟空に背を向けた。背中に悟空の視線を感じる。それだけでベジータの心臓はみるみるうちに高鳴っていった。
一体今自分は何をしていたんだろう。今まで悟空に抱かれた事は何度もあったが、いつも強引に
されていたようなモノで自分にこんな感情があるなんて思いもしなかった。なすがままにされるのがいつの間にか当たり前のことになっていて、またそれ以上に自分も悟空の事を同じ様に愛し欲していたのだという事実が、ベジータにはまだ信じられなかった。というより、その事実を受け入れたくなかったのだ。
「ベジータからこんな事してくれるなんてな…」
ふいに沈黙を破って悟空が話し始めた。その声に、ベジータの体はますます欲情していく。頭では悟空を欲している事など嘘だと思い込もうとしているのに、体はベジータの素直な感情を露わにしていく。
「らしくないとでも言いたいんだろう。そう思うなら正直に言えばいい。俺だってこんなの本気でやってるわけじゃないんだからな…。ただちょっと遊んでみただけだ…いつもやられっぱなしじゃ俺のプライドが許さんからな。」
ホントの気持ちを悟られないようにと平常心を装いながら、ベジータがつぶやいた。
バレてはいけないと思う感情が、彼にこのセリフを言わせていた。
すると、悟空はすべてわかっているかのようにふっと笑って言った。
「嘘言うなよベジータ…オラわかってんだぞ?おめぇもオラの事欲してるんだってな。」
「…ッ」
いきなり核心をつかれ、少し言葉に詰まる。
「貴様ぁ、何を根拠にそんな事言ってるんだ!!」
が、ベジータは嘘をつきとおそうとして叫んだ。悟空は、そんな彼を後ろからぎゅっと抱きしめると、彼の顎を自分の方に強引に引き寄せ優しくキスした。
「いいかげん正直になれよ…ホントはオラの事が欲しいんだろ…?」
”まだそんな事言いやがるのかっ!!”
ベジータがそう言おうとした瞬間。悟空はもう既に彼の口を塞いでいた。
「もうしゃべんなよ…」
そう耳元でささやくと、そのままソファにベジータを押し倒し無我夢中で唇を合わせた。濃厚に舌を絡ませられ、ベジータはあまりの快感に喘ぐ事しかできない。
「や、やめろ…カカロット!…んッ…」
次第に抵抗する力も弱まっていく。もう自分を抑えられない。悟空が欲しい…もはやベジータはただそれを切望するようになっていた。めちゃくちゃにしてくれ…
そう思うと、ベジータの中でまた欲望が溢れ出した。そして、ついにベジータは悟空の口内に自分から舌を絡ませたのだった…