いつもおなじひととごはんを食べるというのは素敵なことだa ごはんの一数だけ生活が積み重なっていく。
「九月の旅行、私の我儘(わがまま)なのはしっているわ」
数日後に私は言った。ごく一般的にいって結婚したら、みんなそうそう気軽 (きがる)に一人旅になどいかないものであるらしいことも知っていた。
「でも私はその我儘(わがまま)をなおすわけにはいかないの」
ほかに言い様がなかった。
「そのこと、ほんとうはわかっているんでしょう?」
夫はしぶしぶうなずいてそれを認めた。
「やっぱりね」
私の声は、自分の耳にさえ嬉しそうに響く。
「旅行中は外食してね。上野さんやたくろうさんと飲みにいったら?」
私は夫の友人の名前をあげた。
「旅行中、しょっちゅうあなたのことを考えるわ。約束する」
私が言うと、夫は一瞬疑わしそうな顔をしたけれど、不承不承(ふしょうぶしょう)、うん、と言ってうなずく。
「あなたも私のことを考えてね」
うん、と即座にこたえた夫の横顔をみながら、ほんとなの?ごはんじゃなく私をよ、と、釘(くぎ)をさしたくなるのを辛うじて(かろうじて)おさえた。