Normal speed, please
坂道の両脇に、桜の花が咲いていた。そこを登りきると、やけに真新しい病院が見えてきた。比較的新しくきれいな建物で、なんだか生活感はあまりない。病院なのに、オフィスビルみたいな感じがした。それで少し気が楽になった。受付で用件を伝えると、すんなり病室を教えてもらえた。
これから、見ず知らずの人間に初めて会うと思うと、けっこう緊張した。ましてその相手が女子で、おまけに病気で入院中と聞けば、なおさらだった。
病院のエレベーターを待ちながら、僕は少し落ち着かなった。
すげー美人らしいぜ、と誰かが言っていた。
名前は、渡良瀬(わたらせ)まみずというらしい。
高一最初のホームルームで、担任の芳江(よしえ)先生がよく通る声で言った。
「渡良瀬まみずさんは、中学の頃から深刻なご病気で、長らく入院されているとのことです。一日でも早く退院して、皆さんと学校生活を楽しめるようになるといいですね」
教室に空いたままの席が一つあった。うちは私立の中高一貫校で、面子もだいたい中学の頃から変わらない。渡良瀬まみずを知っている生徒はほとんどないようだった