アクセント練習に使いたいと思います。よろしくお願い致します。
世界の金融史に残る動乱の9月。その大詰めに、とんでもないどんでん返しが控えていた。米議会下院が、7千億ドル(約75兆円)の公的資金で銀行・証券の不良資産を買い上げる金融安定化法案を否決してしまった。危機の連鎖を恐れた世界中の株式市場は総崩れとなった。
同じ日に欧州でも銀行の国有化が相次ぎ、危機が広がっていた。信用不安から、金融機関の間でのドル資金の貸し借りが世界的にマヒしているため、日米欧の中央銀行がドル供給の追加を表明した直後の否決である。世界経済は恐慌という地獄のふちに立っているといっても過言ではない。
法案をこのまま葬れば、世界の金融システムは大混乱に陥る恐れがある。米国の政府と議会は、その責任を自覚すべきだ。ここは何としても法案の修正をまとめ、今週中に成立させてもらわなければならない。
もともと金融安定化法案のとりまとめは難航を極めていた。ブッシュ大統領は政権末期で指導力を失っている。しかも、大統領と同時に改選される下院の議員たちは「大もうけしてきたウォール街を税金で救うのか」という有権者の手厳しい批判を受けて、公的資金反対に傾いていたからだ。
応酬の結果、法案には条件が幾重にもついた。2500億ドルをまず使い、政府の裁量で1千億ドル積み増せるが、残る3500億ドルは議会の承認を必要とすることになった。制度を利用する銀行・証券の経営陣には高すぎる報酬を制限する条項も入った。
それでも有権者の多くは納得せず、各地で反対のデモが続いている。下院の採決では、大統領の「身内」である共和党の7割近くが反対し、民主党も4割が反対に回った。
税金の投入をおいそれとは認められない米国民の気持ちはよく分かる。10年ほど前に金融危機を経験した日本でもそうだった。
とくに米国では、市場万能主義や金融肥大が極端に進み、貧富の格差も日本の想像を絶する。ウォール街に対する国民大衆の怒りやうらみは、かつての日本より激しい。さらに米国には伝統的に、政府は企業活動に介入や支援をすべきでないという考え方があり、とりわけ共和党に強い。
そこまでしなくても何とかなると楽観しているのかもしれない。しかし巨大なバブルがはじけた以上、金融システムを守るには、結局は公的資金を使わざるをえない。ウォール街のためではなく、国民経済を守るためである。国民を納得させるのは困難な仕事だが、安定化策は時間との勝負だ。
大統領選まで1カ月余り。米国の政治は難しい過渡期にあるが、大統領と議会の指導部は、議員と国民の説得に全力をあげてほしい。