米国発の金融危機が、世界的な広がりと深まりを急速に増してきた。
米国などの金融機関が世界各国の市場で、ドル資金の調達に窮している。事態を打開するため、米国、欧州、英国、スイス、カナダ、そして日本を加えた6カ国・地域の中央銀行が、連携してドル資金を供給することになった。日本銀行が国内でドル供給するのは史上初めての事態である。
資金が調達できないのは、米国で証券4位のリーマン・ブラザーズと保険最大手のAIGが相次いで行き詰まったことで、他の米系金融機関に対しても市場の不安感が高まったからだ。昨年来の金融危機で多額の損失を出した欧州の一部金融機関も、ドルの資金繰りに苦しんでいる。
日本が金融危機さなかだった10年前には、日本の銀行が海外でドル資金を取れず「ジャパン・プレミアム」という割高金利を払わされた時期があった。こんどは米国などの金融機関が、同じような境遇に置かれているのだ。
もしも資金繰りに失敗して破綻(はたん)する銀行が現れれば、世界の金融システムが、まひ状態に陥る恐れがある。最悪の事態を防ぐため、日米欧の金融当局がスクラムを組むことになった。
当局は金融システムを守るため、万全の態勢で臨んでもらいたい。
今回のドル供給策は、まず日銀が米ニューヨーク連銀との間で、円とドルの資金を交換する。日銀はそのドル資金を東京市場で、主として海外の金融機関に担保を取って貸し出す。
こうした方式はすでに昨年暮れから、金融危機の痛手が大きい米欧間では採用されていた。今回これに日銀などが加わったことは、それだけ金融市場の混乱と不安が広まり深刻になってきたことを示している。
資金供給は主として、年末年始にドル資金が不足することがないよう、いまから備えることに狙いがある。米国当局者が「リーマンやAIGが最後とは思っていない」と明言しているように、さらなる金融破綻が年末にかけて起きたときに備えての予防的措置という側面も大きいようだ。
リーマンを見殺しにしたかと思えばAIGを救済し、市場が動揺したら世界中にドル供給網を張る。米当局の対応には泥縄の観も否めない。
しかし、危機のゴールが見えないなかで、金融機関に最大限の自助努力を強制しつつ、行き詰まった会社が出てきたら整理していかねばならない。今後もケース・バイ・ケースで対応していかざるを得ないだろう。
大切なのは、スピード感をもって時々の判断を下し、必要な措置を総動員することである。
日本の当局も、日本の銀行に問題は生じていないとしているが、市場が安定するよう全力であたってほしい。