約束をしながら、ふと見上げた窓の外はどんよりしたグレーだった。
風で、雲の波がものすごい勢いで押し流されてゆくのが見えた。この世には—きっと、悲しいことなんか、なんにもありはしない。なにひとつないに違いない。
宗太郎は公園が大好きな人だった。緑のある所が、開けた景色が、野外が、とにかく好きで、大学でも彼は中庭やグラウンドわきのベンチによくいた。彼を探すなら、緑の中を、というのはすでに伝説だった。彼は将来、植物関係の仕事に就きたいそうだ。
どうも私は、植物関係の男性に縁がある。
平和だった頃の私と、平和な明るい彼は、絵に描いたような学生カップルだった。彼のそういう好みで、よく真冬でもなんでも二人は公園で待ち合わせたものだが、あんまり私の遅刻が多いので申しわけなくて、妥協点として見出(みいだ)された地点は公園の真横にある、だだっ広い店だった。
そして今日も、宗太郎はその広い店のいちばん公園よりの席にすわって外を見ていた。ガラス張りのその窓の外は、いちめんの曇り空に風でわさわさ揺れる木々が見えた。ゆきかうウエイトレスの間をねって彼に近づいてゆくと、彼は気づいて笑った。
向かいの席にすわって、
「雨が降るかな。」
私が言うと、
「いや、晴れてくるんじゃない?」と宗太郎は言った。「なんで二人で久しぶりに会って、天気の話してるんだろうね。」
その笑顔に安心した。本当に気のおけない相手との午後のお茶は、いいものだなあ、と思う。私は彼の寝ぞうがむちゃくちゃに悪いのを知っているし、コーヒーにミルクも砂糖もたくさん入れることや、くせ毛を直したくてドライヤーをかけるばかみたいにまじめな鏡の中の顔も知っている。そして、彼と本当に親しくしていた頃だったら、今頃私は冷蔵庫みがきでずいぶんはげた右手のマニキュアが気になっちゃって話にならないと思う。
「君、今さ。」世間話の途中で、ふいに思い出したように宗太郎が言った。「田辺んとこにいるんだって?」
私はたまげた。