「じゃあ、あなたを産んだのは誰?」
「昔は、あの人も男だったんだよ。」彼は言った。「すごく若い頃ね。それで結婚していたんだよね。その相手の女性がぼくの本当の母親なんだ。」
「どんな・・・・人だったのかしら。」
見当がつかなくて私は言った。
「ぼくもおぼえてないんだ。小さい頃に死んじゃってね。写真あるけど、見る?」
「うん。」
私がうなずくと彼は自分のカバンをすわったままずるずるたぐり寄せて、札入れの中から古い写真を出して私に手渡した。
なんともいえない顔の人だった。短い髪、小さな目鼻。奇妙な印象の、歳(とし)がよくわからない女性の・・・・・・私が黙ってままでいると、
「すごく変な人でしょう。」
と彼が言い、私は困って笑った。
「さっきのえり子さんはね、この写真の母の家に小さい頃、なにかの事情で引き取れて、ずっと一緒に育ったそうだ。男だった頃でも顔だちがよかったからかなりもてたらしいけど、なぜかこの変な顔の。」彼はほほえんで写真を見た。「お母さんにものすごく執着してねえ、恩を捨ててかけおちしたんだってさ。」
私はうなずいていた。
「この母が死んじゃった後、えり子さんは仕事を辞めて、まだ小さなぼくを抱えてなにをしようか考えて、女になる前はすごい無口な人だったらしいよ。半端なことが嫌いだから、顔からなにからもうみんな手術しちゃってさ、残りの金でその筋の店をひとつ持ってさ、ぼくを育ててくれたんだ。女手ひとつでって言うの?これも。」
彼は笑った。
「す、すごい生涯ね。」
私は言い、
「まだ生きてるって。」
と雄一が言った。
信用できるのか、なにかまだひそんでいるのか、この人たちのことは聞けば聞くほどよくわからなくなった。
しかし、私は台所を信じた。それに、似ていないこの親子には共通点があった。笑った顔が神仏みたいに輝くのだ。私は、そこがとてもいいと思っていたのだ。