みかげとえり子間の会話を省略しました。
よくよく見れば確かに歳相応のしわとか、少し悪い歯並びとか、ちゃんと人間らしい部分を感じた。それでも彼女は圧倒的だった。もう一回会いたいと思わせた。心の中にあたたかい光が残像みたいにそっと輝いて、これが魅力っていうものなんだわ、と私は感じていた。初めて水っていうものがわかったヘレンみたいに、言葉が生きた姿で目の前に新鮮にはじけた。大げさなんじゃなくて、それほど驚いた出会いだったのだ。
車のキーをガチャガチャ鳴らしながら雄一は戻ってきた。
「十分しか抜けられないなら、電話入れればいいと思うんだよね。」
とたたきで靴を脱ぎながら彼は言った。
私はソファにすわったまま、
「はあ。」
と言った。
「みかげさん、うちの母親にビビった?」
彼は言った。
「うん、だってあんまりきれいなんだもの。」
私は正直に告げた。
「だって。」雄一が笑いながら上がってきて、目の前の床に腰をおろして言った。「整形してるんだもの。」
「え。」私は平静を装(よそお)って言った。「どうりで顔の作りが全然似てないと思ったわ。」
「しかもさあ、わかった?」本当におかしくてたまらなそうに彼は続けた。「あの人、男なんだよ。」
今度は、そうはいかなかった。私は目を見開いたまま無言で彼を見つめてしまった。まだまだ、冗談だって、という言葉をずっと待てると思った。あの細い指、しぐさ、身のこなしが? あの美しい面影を思い出して私は息をのんで待ったが、彼は嬉しそうにしているだけだった。
「だって。」私は口を開いた。「母親って、母親って言ってたじゃない!」
「だって、実際に君ならあれを父さんって呼べる?」
彼は落ち着いてそう言った。それは、本当にそう思えた。すごく納得のいく答えだ。
「えり子って、名前は?」
「うそ。本当は雄司っていうみたい。」
私は、本当に目の前が真っ白く見えるようだった。そして、話を聞く態勢にやっと入れたので、たずねた。