まず、台所へ続く居間にどかんとある巨大なソファに目がいった。その広い台所の食器棚を背にして、テーブルを置くでもなく、じゅうたんを敷くでもなくそれはあった。べージュ布張りでCMに出てきそうな、家族みんなですわってTVを観そうな、横に日本で飼えないくらい大きな犬がいそうな、本当に立派なソファだった。
ベランダが見える大きな窓の前には、まるでジャングルのようにたくさんの植物群が鉢やらプランターやらに植わって並んでいて、家中よく見ると花だらけだった。いたる所にある様々な花びんに季節の花々が飾られていた。
「母親は今、店をちょっと抜けてくるそうだから、よかったら家の中でも見てて。案内しようか?どこで判断するタイプ?」
お茶を淹(い)れながら雄一が言った。
「なにを?」
私がその柔らかなソファにすわって言うと、
「家と主人の好みを。トイレ見るとわかるとか、よく言うでしょ。」
彼は淡々と笑いながら、落ち着いて話す人だった。
「台所。」
と私は言った。
「じゃ、ここだ。なんでも見てよ。」
彼は言った。
私は、彼がお茶を淹れているうしろへまわり込んで台所をよく見た。板張りの床に敷かれた感じのいいマット、雄一のはいているスリッパの質の良さー必要最小限のよく使い込まれた台所用品がきちんと並んでかかっている。シルパーストーンのフライパンと、ドイツ製皮むきはうちにもあった。横着な祖母が、楽してするする皮がむけると喜んだものだ。
小さな蛍光灯に照らされて、しんと出番を待つ食器類、光るグラス。ちょっと見ると全くバラバラでも、妙に品のいいものばかりだった。特別に作るもののための......たとえばどんぶりとか、グラタン皿とか、巨大な皿とか、ふたつきのビールジョッキとかがあるのも、なんだかよかった。小さな冷蔵庫も、雄一がいいと言うので開けてみたら、きちんと整っていて、入れっぱなしのものがなかった。
うんうんうなずきながら、見てまわった。いい台所だった。私は、この台所をひと目でとても愛した。