自然に呼んでください。ゆっくりお話していただけませんか。よろしくお願いいたします。
この日の雪が始まりだった。
「あっさてには春が来る」
丘陵の上から大きな観音像が見下ろす街の、ゴルフ場や自動車教習所を抱える広い河原に立って杉浦草はそう呟いて自分を励ました。白い息が鼻先に立ち上がる。
春と言っても暦の上で立春を迎えるだけの話だ。さっき手を合わせた小さな祠にも霜が降り、土を草履で踏みしめられば霜柱がざくざくと鳴る。数え七十六になる草の痩せた身体に寒さが染み入り痛い。それでも草は白んできた東の空に向かって、渋い縞の着物の背を伸ばした。関東平野が終わる山々までゆったりと広がり空を眺める。速くの雪山は吹雪いているのか、今朝は見えない。
thank you