リチャード・レウォンティン、デイビッド・スローン・ウィルソン、エリオット・ソーバーのような、より高次レベルの選択の支持者は「遺伝子に注目するだけでは生物の現象の理解に不十分だ」と批判している。1970年代以降、断続的にドーキンスを批判している哲学者メアリー・ミッジリーは、「遺伝子選択」、「ミーム」、社会生物学を極端な還元主義だと批判している[21]。
進化の解釈とメカニズムに対する一連の論争(「ダーウィン・ウォーズ」と呼ばれることもある[22])は社会生物学論争の一端として、ドーキンスと彼のライバルであるアメリカの生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドの間で行われた。二人は特に社会生物学と進化心理学の論争において、ほとんどの場合ドーキンスは擁護者として、グールドは批判者として論陣を張った[23]。ドーキンスの典型的な立場はスティーブン・ローズ、レオン・カミン、レウォンティンの『遺伝子の中にはない』に対する酷評によくあらわされている。ローズらやグールドの主な批判は「社会生物学者は遺伝子決定論者で還元主義者である」「現在の社会的不公平は遺伝子の不可避的な現れであると正当化している」であった。これに対し、「ローズらの批判は単なるウソである。遺伝的な効果の不可避性神話は社会生物学とは何の関係もなく、ローズらのパラノイア的で悪魔神学的な科学の中にしかない」と述べた。また「社会生物学者が「遺伝子」について多く語るのは、行動であれその他の形質であれ、それに関わる遺伝子を想定しなければ進化の文脈で扱えないからだ」とも述べた。ローズらが遺伝子決定論の代替案として提示した「弁証法的生物学」のたとえ話はケーキであった。ケーキは材料の質や焼く温度や、それらの複雑な相互作用の結果であって、各要素に分離することはできない。ただし、この喩えはすでに1981年にドーキンスが用いていた。ドーキンスとパトリック・ベイトソンは、遺伝子の働きをレシピに、材料を環境に喩えていた[24]。しかしこの比喩は個体発生に対するものであり、「ローズらは個体発生と進化を混同している」とも述べた。
ドーキンスの側に立つ代表的な論者にはスティーブン・ピンカーとダニエル・デネットがあげられる。デネットは遺伝子中心視点を支持し、生物学における還元主義を擁護している[25]。ドーキンスとグールドは、学問上の意見の不一致にもかかわらず、敵意は個人的な関係にまでは及んでいなかった。ドーキンスはグールドの死の翌年に出版された『悪魔に仕える牧師』でグールド追悼のために一節を当てている。
ドーキンスのその後の著作は進化の経験的な証拠をまとめた内容で、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』出版のちょうど150周年に当たる 2009年11月24日に出版が予定された[26]。