Natural speed please.
たけしとヒロシはおどおどした性格や「シャツの裾はズボンに挿入すべき」というファッションの方向性、インターネット中毒なところなど共通点が多く、次第にプライベートでも会って傷口を舐め合う、いや、悩みを相談し合う仲になったのだ。
現在ヒロシはアルバイトとして、宅配便会社の倉庫で段ボール箱をひたすらベルトコンベアに乗せ続ける業務に就いている。
「たけし先輩だから言うんですけどー、ぶっちゃけ、俺いじめられてるっぽいんですよ。フォークリフトの人が俺のとこばっかに重い荷物を運んでくるし、それでコンベアに流すのが遅れると俺だけチーフからめちゃくちゃに怒鳴られるし」
「うわー、それ結構しんどいよね。職場のいじめは辛いと思うわ。部外者の俺がなんとかしてやれることでもないし……」
手入れのされていない乱れ長髪のたけしは、すだちサワーを口につけながら「それは困ったなあ」という表情を作った。
ちなみに彼は今「部外者の俺がなんとかしてやれることでもないし」と言ったが、実際はたとえたけしがヒロシと同じ職場だったとしても、これはなんともしてやれないことだ。なぜならたけしには、男気も、行動力もない。男気も行動力もリーダーシップも仕事も保有資産もすべてが0の一介のニートがなんとかできることなど、この世にはなにもないのである。せいぜい彼にできるのは、ゲームの世で悪の魔王を倒して街に平和を取り戻すことくらいだ。
「来月のお中元シーズンが終わったら辞めたいと思うんですけど、でも今のバイトも18件目でやっと受かったとこだし、次が見つかるかどうか考えたら恐くて」
ヒロシは軽く頭を下げ「ポテト失礼します」と額で語り、フライドポテトを1本つまみ上げた。
ありがとうございました。