森がありました。とても豊かな森です。
丘がありました。森を一面見渡せる、高い丘です。
丘の上に、一人の狙撃兵がいました。
狙撃兵は、長い狙撃用のパースエイダー(注・銃器)に抱きついてうつぶせになっています。
夜でも遠くでもよく見えるスコープを覗きながら、森の隅から隅まで、目を光らせていました。
今、森の中にあるきれいな湖の脇で、何かが動きました。狙撃兵の興味がそっちに移ります。
狙撃兵の目には、湖の湖畔で、一糸まとわぬ姿で楽しそうにはしゃぐ、男の姿が映りました。
狙撃兵はなんかしばらく硬直していましたが、すぐにその男に――少し背が低くて、ハンサムな若い男です――ぴたりと狙いをつけました。後は引き金を絞るだけで、弾はものすごい速さで飛び出して、男を殺してしまうでしょう。湖水は真っ赤に染まるでしょう。
狙撃兵が呼吸をととのえ、引き金に指をかけたその瞬間です。
「やめてくださいね」
狙撃兵の後ろから、透き通るような、きれいな声が聞こえました。狙撃兵は少し驚いて、ゆっくりと頭だけを起こして振り向きました。そこには、一人の女性が立っていました。