自然なスピードお願いします。
紙芝居屋さんの話
一日一円貯金を四年間もつづけ、たまったお金はそっくり不幸な人々におくっている積善グループがある。その人たちは東京板橋の紙芝居屋さんで、武井勇作さん(五六)、中川三郎さん(六三)、近藤正勝さん(六三)(仮名)の三人。
小春日和のある日、武井さんのお宅を訪ねた。みんな思ったよりお年寄。この道三十年、孫が二、三人もあるというおじいちゃんばかり。あたたかな日差しをうけた縁側で武井さんたちは、積善貯金についてこう話してくれた。
「この商売はお天気稼業、雨が降ったら、やすむより仕方がない。昔はそんなときには「一合会」というのをやってましてね。お酒を一合買ってきて、みんなでチビリチビリとやりながら、雨空をながめるのが通例でした。或る雨の日、なんの話から出たのか、ひょっくり誰いうともなく、「世の中にはわしらより気の毒な人がいる。そんな不幸な人々をなぐさめるような何かよいことをしようじゃないか」といい出し、みんな意気投合しましてね。早速、次の日から、働いた日に、その日の収入のうちから、一人一日一円ずつ貯金することにしました。
はじめは七、八人でやっていましたが、テレビにおされて、だんだんこの商売も収入が減り、一人、二人と転業していく人が増え、今ではわしら三人が残りました。
ですから、年五百円くらいしかたまりませんが、第一回目は近くの保育施設の子供たちに千五百余円、第二回目は婦人更生施設へ八百余円、第三回目は伊勢湾台風で被害をうけた子供たちへ六百余円と、今まで三回寄付しましたが、寄付した先では大変喜んでくれましてね。」語気にだんだん熱もおびてきた。
これがわしらの貯金箱です、といってみせてくれた箱は手あかで黒ずんだ荒木のみかん箱、表には「積善の家には余計あり、積善の集い」と書かれてある。おおきな貯金箱である。箱に一パイためたら一万円近くも入るだろうか。
この人たちのことはA新聞でも町の佳話としてとりあげられ、全国に報道されたが、このことをきかけとして、自分たちだけの行為にとどまらず「一円貯金積善の箱のお勧め」という刷り物をつくって、全国によびかけている。早速、下関からは七十才になるおばあさんから、手紙にお金二百円を添えて送られてきたそうである。「みんなが仲良くくらすことがわしらの理想です。お客さんの子供たちがケンかをしているのをみると、胸がいたくなります。
わしらがやっているのは売名のためではありません。一日一円なら貧乏人でもそんなに苦痛はないはずです。たとえば十二円の玉子を十一円のに倹約すればいいじゃないですか。一円は小額ですが、全国で実行すれば、大変な額になるでしょう。だれでもが一円貯金をする気持になれば、世の中も、もっと明るくなるんじゃあないでしょうか。」
このように語る武井さんたちの老いたひとみは「よいことをしている」のだという誇りと希望に、明るく輝いた。東京の片隅に生まれた積善貯金は、この紙芝居屋さんたちのタイコのように、やがて全国各地で、元気よく「ドンドコ」「ドンドコ」となりひびくことだろう。