日本では、親が子どもにスポーツをさせる一番の理由は「礼儀を学ばせたいから」だろう。未来の石川亮をねらってスポーツエリートを育てようとする親なら別だが、たいていの親はスポーツの技術より、スポーツを通して人間関係について学ばせるのが第一の目的のはずだ。スポーツの世界が日本社会の縮図と考えている親も多いと思われる。
ヨーロッパから来た学生は、この話を聞いてとても驚いたそうである。なぜなら「礼儀」とは、親が家庭で教えるものだからだ。それを他の人に頼むなんて、育児放棄をしているのと同じではないかというのが、この学生の主張だった。
もちろん日本でも家庭は「礼儀」を学ぶ大事な場所だ。しかし、「礼儀」とは他人から学ぶ、他人との関係を通して学ぶ一面も大きい。とりわけ、上下関係については、幼いころから学んでおけば、社会に出てから少しは人間関係の苦労が減るように思われる。理不尽な上司との付き合い方も、学生時代に先輩との付き合い方で経験しているからだ。
そう考えると、なぜ相撲界で外国人力士が礼儀についてバッシングを受けやすいのか、わかるような気がする。とにかく監督の言うことが正しい、先輩の言うことは何でも聞けという日本社会に、ある日突然入るのだから、それはとても気の毒な話である。怒られる理由を理解するのは大変だろう。
会社の中でも、社会においても上下関係を重んじるやり方は今やグローバルスタンダードからは遠く離れているかもしれないが、個人的には尊重したい日本の習慣だ。長く生きているだけで敬われるなんて、すてきなことではないでしょうか。そう思うのもたぶん、自分が年をとってきたからかもしれませんが。