ひと:把瑠都凱斗(ばるとかいと)さん 大関に昇進する
いつもは軽口と人懐こい笑顔で、支度部屋の人気者。だが、大関昇進が確実になったことについては「まだ実感がわきません」と慎重に話した。
体格ほど環境に恵まれたわけではない。バルト海沿岸の旧ソ連・エストニア共和国出身で、実家は牛を飼育する専業農家。子どものころから仕事を手伝い、大きなかまを手に牧草刈りもした。過酷な重労働にも「つらいと思ったことはない。家の仕事の大変さは分かっていた」。
16歳で始めた柔道で母国のジュニア王者になったが、同時期に父を亡くし、生活費のためにバーで深夜まで用心棒のアルバイト。「危険な経験もいっぱいした」と振り返る。
柔道の恩師が相撲も教えていたことが運命を変えた。欧州ジュニア2位になると、日本のアマ相撲関係者から勧誘を受け、04年夏場所に19歳で角界入り。「けいこは厳しかった。でも、自分にとっては趣味みたいなもの」。度重なる左ひざの故障も乗り越えた。
人一倍の努力家でもある。所属する尾上(おのえ)部屋に大阪のけいこ場を提供する近沢一三(かずみ)さん(68)は「朝はけいこ場に一番早く下りてくる」と語る。素顔は、故郷の母に仕送りする孝行息子だ。
「相撲は美しい」。新弟子時代、力士を志す理由をこう語った。愛する相撲の現状に危機感を持つ。「もっと盛り上げたいし、子どもの人気を高めたい」。背負って立つ責任の重さを感じている。【田内隆弘】
【略歴】把瑠都凱斗(ばると・かいと)さん 本名カイド・ホーベルソン。198センチ、188キロ。ロシア語、ドイツ語なども話せる。昨年結婚。25歳。