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三学期がこの四月からはじまっていた。日本でも、欧米と同じく一学期が九月からはじまるようになってもう長い。百年前は桜の咲く頃が入学式のシーズンだったことのほうが、今となっては不思議だった。
旧墨田区役所あたりは、この五十年で大きく区画整理された。広い車道を、川が流れようにスムーズに自動車が走る。自動操縦 (オートクルーズ) が全車に普及して、公道は渋滞しなくなった。
アラトたちが交差点にさしかかると、四車線の通りをおばあさんがわたって来るところだった。黄色のジャージを着た少女が、そばに寄って手を引いている。
「僕も行ってくる」と、アラトは髪をセミロングにした少女に手を貸しにゆく。
「あの子、人間じゃなぃですよ」
友人の村主ケンゴが、後ろから声をかけてきた。
「お人好しもいいですけど、hIE (インターフェース) が動いているところに手を出したら、かえって処理に負荷をかけますよ」
インターフェースとは、hIE──humanoid Interface Elements (ヒューマノイド・インターフェース・エレメンツ) と呼ばれる人間型ロボットのことだ。hIEは、人体と同じかたちをしていて、人体のできることをほぼ肩代わりできる。おかげで人手が足りないことがほぼなくなり、世界は便利になった。
「それでも僕がしたいんだ」
アラトが横断歩道へ駆け出す。彼が近づくのに気づいた少女型のhIEが、人間と変わらない振る舞いで、笑顔で迎えてくれる。
背中の曲がったおばあさんが、顔をくしゃくしゃにして礼を言ってくれた。
「ありがとうね」
人間は気持ちを直接伝えられないから、行動で感情を示す。だが、少女型のhIEが同じように微笑む。笑顔を浮かべることだけなら、人体に似ているモノにだってできる。それでもアラトも好意を感じてうれしい。こんなhIEであふれているのが、アラトたちの現実だ。西暦二一〇五年の日本社会は、アンドロイドが社会の穴を埋めることで回っている。
アラトたちは百年後の世界に生きていた。
Thanks @fujimuu !
Beatless is great manga series!