鳥海氏がヒラギノ明朝体で手本にしたのは、平安朝の連綿仮名(れんめんがな)でした。
「流れるような筆使いで、線が強くて、勢いがあり、平安時代の仮名といっても今見ると逆に、モダンなんです。平安朝の仮名にあこがれたのはね、前の会社に勤務していたころ、その会社で仮名のデザインをしていた橋本和夫さんの家が近所だったのです。それで会社との行き帰りなどに、いろいろと文字のデザインについて教えてもらいました。自分の書いたデザインを持っていくと、『ここが違うんだな〜』とおっしゃって、筆でその文字を書くんですよ。それで、『ほら、筆ではここが太くなるでしょう。だから、書体でもこうでなくちゃいけないんだな』とおっしゃってね。ぼくは『やっぱり書道をやらなきゃダメなんだ』と思って、書道部に入ったんですよ。そこで平安朝の仮名に出会いました。『なんてきれいな仮名なんだろう』って思いましてね。それもあって仮名のデザインをしたいとずっと思っていたんですよ」。
書体のデザインは、最初に48mm四方の方眼紙に、元の文字を下書きし、それに墨入れをして仕上げる。これを字母として、大日本スクリーン製造に納品し、それがデジタル化されて、最後にデザイナーがチェックするという工程でした。ところが、できあがってきたデジタルフォントがデジタル化の過程でデザイナーの意図したものと若干異なることが多く、字游工房でデジタル化したほうが効率がよいということになったといいます。そこでコンピュータを導入して、 IKARUSというフォント作成システムを導入することになりました。その際に、これまでパソコンに触れたことがないデザイナーが使いやすいパソコンということで、Macintoshが導入されたのです。使用されたソフトは<IKARUS m(イカルスエム)>というIKARUSのMacintosh版ソフト。あるファクターをすべての文字に適用してウェイトの違う書体を自動的に作ったり、一字一字を手作業で修正し、それをデータベースとして残すことができます。これによって、作字の効率は格段にアップしたと鳥海氏はいいます。